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カナダ政府は現在、エクスプレスエントリーに大幅な改定を具体的に計画しています。その改定が施行されると、カナダ移民局がカナダが欲しい人材にターゲットを絞ってInvitation to Apply (ITA)を送ることができるようになります。
この変更にはもちろんメリットが含まれますが、デメリットや懸念事項についてもあえて掘り下げて考察してみたいと思います。
【まもなく法制化】エクスプレスエントリー改定案
エクスプレスエントリーは、2015年1月に始まった移民申請管理システムです。そして現在、これまでで最も大きなシステム改定が予定されています。
改定に関する法案 C-19(Bill C-19)は、現在カナダ議会で審議されており、6月の議会休会までには法制化されるものと予想されます。この改定の具体的内容と協議状況については先日のブログ記事により詳しく記載しました。改定の主旨としては、かねてよりカナダ移民局が説明しているように、需要のある職種や、その他のカナダの方針(フランス語スピーカーを増やすなど)に沿ったターゲットに絞り込んだ上でのITA(Invitation To Apply:永住権を申請して良いですよという内容のレター)発給を可能にするものです。
また重要なポイントとして、法案には移民大臣がITAの発給対象グループを決定する権限を持つという条項も含まれています。改定案を提出した常任委員会では、その是非が問われていました。
これまでのITA発給基準
この法案が可決されると、これまで採用されていたITA発給基準が大幅に変わることになります。2015年にサービス開始に伴い導入されたエクスプレスエントリーアプリケーション管理システムでは、これまで移民局は、CRS (Comprehensive Ranking System) と呼ばれるランキングスコアとEEプログラム資格条件に基づいてITA発給を行ってきました。
◆コロナパンデミック前
カナダ移民局は主に、CRSスコアが高い人を優先してITAを発給していました。これは、CRSスコアがカナダでの経済的自立の可能性を客観的に判断するのに有効であり、スコアが高い人ほど、カナダで経済的にも成功するという考えに基づいています。移民局はこのアプローチを一時的にストップしていますが、全申請カテゴリーのITA発給を7月初旬に再開に伴い、こちらも再開することになります。
◆コロナパンデミック状況下
ITA発給は、そのほとんどが申請カテゴリーを特定したものでした。2021年9月まではCEC (Canadian Experience Class) カテゴリーのみにITAを発給しています。この意図は、すでにカナダに住んでいる申請者(コロナ禍でもランディング可能な一時滞在者)にITAを発給しカナダ永住権を取得させ、昨年2021年の移住者受け入れ目標値として設定されていた40万人を達成しようというものでした。また、カナダの各州・準州の労働不足に応えるため、PNP(Provincial Nominee Program:各州ノミネーションプログラム)カテゴリーでのITA発給も多く行われました。
改定法案が可決されると、どうなる?
これまでのITA発給は、100%確実ではないにしろ、比較的客観的な審査基準に基づいていました。そのためエクスプレスエントリー登録者は、自分のITA受け取りの可能性を予測するための、それなりに確実性のある判断材料がありました。7月初旬に全カテゴリーのITA発給が再開されたときにこれがどうなるか、ITAを受け取るためにポイント上げる最善の策が何であるかは、その時になってまた判明するものと考えられます。
デメリットとして懸念されること
1. ITA発給の予測がしにくくなる?
エクスプレスエントリー改定が実施され、特定のグループに基づいてITAを発給できるようになった場合、この判断基準の確実性が下がることが考えられます。今回の改定を実現させるため、移民局にはITA発給基準を決定するという大きな権限が与えられることになります。これは、世論などの客観的ではない基準によってITA発給対象が指定されるというリスクを含んでいると言えます。
例えば、世論や特定のグループ(利益団体)が、ある産業分野における労働力不足の客観的な経済データないにも関わらずITA発給の決定を示唆する、移民局にとっての圧力になることもあり得ます。これは極端な例ではありますが、このような多大な権限を移民局に与えるITA発給のあり方に潜在的な限界があることを理解しておく必要があると思います。
2. CRSスコアが高ければITAが発給されるとは限らない?
またエクスプレスエントリー登録者の立場からすれば、ITA発給について確実性に欠けるということは、極めて重大な問題になってきます。理論上では、どんなに高いCRSスコアを持っていても、ITAを受け取れるとは限らない状況になるからです。
例えばCRSスコア480点を持っている人の場合、パンデミック前ならほぼ確実にITAを受け取ることができていました。ところが改定後のシステムでは480点あってもITAがもらえない人がいる一方で、カナダで需要があると指定された職種の200点しかCRSスコアがない登録者にITAを発給することがあるかもしれません。改定後のエクスプレスエントリーシステムでは、高いスコアの人より低いスコアの人を選択することの方が賢明であるとカナダ政府にエビデンスを提示するプロセスを欠いた中で、こういったことが起こる可能性があるのです。
3. ITA発給対象グループ決定プロセスの不透明性
カナダ移民局は、2015年にエクスプレスエントリーを開始する際、CRSのランキングシステムは、何十年にも渡るカナダ統計局の調査より、どういった人材の移民がカナダに最も経済的成果をもたらすのかを明らかにして、それに基づいて構築していると主張していました。
つまり、年齢が若く、高学歴で高い言語スキルを持ち、スキルド職種の経歴がある人材がより高いCRSポイントを得て永住権取得の優先度を高くすべきであると説明されていたのです。今回の改定は、特定のグループへのITA発給を、なぜそのグループがその他のグループよりも永住権取得を優先させる価値があるのか、その正当性を示す証拠がないままにITA発給をする権限を移民局に与えることなります。
4. 改定案提出、可決までの議論の不足
今回のエクスプレスエントリー改定案が移民局より議会に提出されるまで公聴会が開かれなかったことも懸念事項の一つです。改定案は法案C-19 (Bill C-19)の一部として含まれており、このBill C-19とは政府与党が迅速に法改正を行うための手段として、あらゆる政策分野の改革を一括して提案するためものです。
パンデミック初期のような危機的状況において、迅速に法改正を行うべき時と場合があることは分かります。ですがなぜ今、連邦政府が利害関係者との協議、監視、議論の時間をほとんど取らずにエクスプレスエントリー改定のような重要な案件を早急な形で提議するのか、そこは理解し難いです。
議会における討論は、与党であるカナダのLiberal Party(自由党)と、それを支持するNew Democratic Party (NDP=新民主党)の間で為されているもので、形式的なものに過ぎません。つまり、利害関係者などが改定に伴う潜在的な問題点を指摘する機会を与えられることなく、これまでで一番大きなエクスプレスエントリー改定が実現のものになることを目にすることになるのです。
カナダ移民局は改定案が法制化された場合には、新エクスプレスエントリーシステムにおけるグループ分けを確立する際に、事前に利害関係者と協議すると主張しています。しかし、この改定案に至るまでの協議が不足していることを考えると、法案が成立した場合に本当に移民局が協議するかどうか、果たして信じてよいものでしょうか?
改定案によるメリット
1. 深刻な労働力不足の解消
その一方で、改定案から得られるメリットがあるのも事実。100万人を超えるといわれるカナダの深刻な人材不足(求人数)によって、大打撃を受けている経済分野が実際に存在するからです。人材不足に悩む分野の仕事を埋めるべく、カナダ移民局が特定の職種にITAを発給することは、カナダと経済にとって有益となるでしょう。
例えばカナダは、高齢化社会や、パンデミックによる深刻な医療従事者の不足に取り組んでおり、エクスプレスエントリー登録者からヘルスケア分野に従事する人が優先的に永住権取得できるようになればカナダの国として非常に助かることになります。
2. フランス語スピーカー人口を増やす
また、カナダの重要な政策の一つである、フランス語スピーカーの移民をカナダ全土に増やす、という観点で考えると、フランス語スピーカーというグループでITAを発給を可能にする改定は望ましいといえます。英語とフランス語の2つの公用語があるカナダにとって、より多くのフランス語スピーカー移民を迎え入れる努力を続けることは極めて重要視されています。
今後について
まもなくこの改正案が法制化される可能性がありますが、カナダ移民局に新たに与えられた権限を実際にいつ行使し始めるかは現時点では不明です。この点に関して、関係各所からの発表を待つ必要があります。
現在のところでは、カナダ移民局が新しいエクスプレスエントリーシステムでITA発給をする特定グループを指定する際にできる限り透明性を保ちながら事前に広く意見を集めてくれることを期待します。
ビザJPカナダでは、今後もこの案件を継続して注目し、先々を見越した適切なご提案をお客様に提示できるよう努めていきたいと思います。
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